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8.8% — 1クラスに 3 人
2022 年に文部科学省が「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」を実施しました。小・中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち 8.8% が「知的発達に遅れはないものの、学習面または行動面で著しい困難を示す」とされ、高等学校では 2.2% でした。
前回(2012 年)は 6.5% でしたが、文科省は前回との数値を直接比較できない旨(対象地域や一部質問項目等が異なるため)を明記しています。数値が上がった事実はあるものの、同じ条件で比較した 2.3 ポイント増 とは言い切れません。
1 学級 35 人なら 3 人。これは「特別な教室」で起きている話ではなく、すべての教員が日常的に直面している 現実です。
数値の前に、注意点を 2 つ
この 8.8% は 発達障害の診断率ではありません。
- 回答者は 学級担任 — 専門家チームの判断でも、医師の診断でもありません
- したがってこの数値は、「支援を必要とする子がどのくらい教室にいるか」を示す現場感覚の推計 です
- 文科省自身が「発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではない」と明記しています
もう一つは 増加の解釈。文科省は理由として「教師や保護者の特別支援教育に関する理解が進み、今まで見過ごされてきた困難のある子どもたちに目を向けるようになった」ことを挙げています。子どもが急に増えたというより、気づかれる子が増えた 側面が大きい。
受け皿の問題 — 特別支援学校の教室不足
2026 年 3 月、文科省は令和 7 年(2025 年)10 月時点の 特別支援学校の不足教室数 3,192 と発表しました。前回比 −167 教室と改善傾向ではありますが、依然として深刻です。
つまり構造として:
- 通常学級で支援を要する子が増えている(8.8%)
- 特別支援学校の受け皿も不足している
- → 結果として 通常学級の担任が支える範囲が広がっている
これが今、特別支援教育のエビデンスが通常学級の教員にとって重要な理由です。
この「通常学級の担任が支える範囲の広がり」は、日本に限った話ではありません。英国(イングランド)には、最も支援ニーズの大きい子に自治体が出す法的な支援計画(Education, Health and Care Plan)があります。英国の研究機関 NFER が 2025 年 11 月に公表した分析によると、この計画を持つ児童生徒の過半数が通常校に在籍しているとされます。その割合は 2024/25 年度で 56%、2015/16 年度の 49% から増えています。法的な計画の対象になるほど支援を要する子でも、その多くが特別支援学校ではなく通常の学校で学んでいるということです。支援を要する子を通常の学校で受けとめる流れは、国を越えて共通しつつあります。
EEF の答え:「Five-a-day」— 5 つの原則
英国の教育エンドウメント財団(EEF)は、SEND(Special Educational Needs and Disabilities)の子どもを通常学級で支える指導 を取り上げています。その中で 「Five-a-day」 という 5 原則を示しました。これらは SEND の子どもを対象としたエビデンスレビューから導かれた 5 原則で、SEND の子どもとその他の子ども双方の学力向上につながる と報告されています。
EEF 自身がこう述べています。“To a great extent, good teaching for pupils with SEND is good teaching for all”。日本語に訳すと「SEND への質の高い指導は、おおむねすべての子どもへの質の高い指導でもある」となります。これは特別支援のための専門的な指導法ではありません。通常学級の教員が日常の授業で既に実践している、あるいは少し意識することで取り入れられる指導 として位置付けられています。
- 明示的指導(Explicit Instruction) — 何をどう学ぶかを明確に説明し、モデルを示し、練習させる
- 認知・メタ認知方略 — 計画・モニタリング・自己評価を子どもに促す
- 足場かけ(Scaffolding) — 段階的な支援を与え、習熟に応じて外していく
- 柔軟なグルーピング — 固定的な習熟度別ではなく、目的に応じた一時的なグループを使い分ける
- テクノロジーの活用 — 課題のモデル化や練習の支援、振り返りのツールとして使う
日本の学級でなじみのある要素も多いはずです。「発問と板書」「学び方を教える」「机間指導」「グループ学習」「ICT活用」— これらを SEND の子に効く形で磨き直す というのが EEF の提案です。
本サイトの戦略と対応させる
Five-a-day の各原則は、本サイトの戦略と次のように対応します。
| Five-a-day | 対応する戦略 | 効果量 |
|---|---|---|
| 明示的指導 | 直接教授法(明示的指導) | +5ヶ月 |
| メタ認知方略 | メタ認知の指導 | +8ヶ月 |
| 足場かけ | 足場かけ | +5ヶ月 |
| 柔軟なグルーピング | 少人数指導 / 個別指導 | +4 / +5ヶ月 |
| テクノロジー活用 | ICT活用 | +4ヶ月 |
どれも「特別支援の指導法」ではなく、通常学級の質を上げる指導法 です。
加えて、日常的に効くエビデンスが 2 つ。
- フィードバック +6ヶ月 — つまずきに即応し、次の一歩を具体的に示す
- 授業のユニバーサルデザイン — 最初から多様な子どもを想定した授業設計(UDL、Universal Design for Learning)
教室で今できる 3 つのこと
1. 「困っているのは何か」を言語化する
発達障害かどうかの判断は、学校・担任の仕事ではありません(医療・専門機関の領域)。担任ができるのは、「この子は、いつ・どこで・何に困っているか」を具体的に観察し、記録する こと。
- 算数の文章題でつまずくのか、計算でつまずくのか
- 授業開始 10 分は集中しているか、そもそも席についていないのか
- 指示が通らないのは、聞き取れていないのか、理解していないのか
これが 足場かけ とも フィードバック とも直結します。
2. 「特別な指導」の前に、通常授業を磨く
学級の 3 人のために、個別の教材や時間を大量に用意し続けるのは現実的ではありません。EEF の示唆は 「全員にとって質の高い授業が、SEND の子への支援の土台になる」 というものです。
- 明示的に説明する
- モデルを示す
- 段階的に支援を外す
- 子どもに自分の学びを振り返らせる
これを徹底するだけで、SEND の子への支援の大半はカバーされます。
3. 「個別の計画」は困難の大きい子に絞る
EEF は 行動への働きかけ の研究でも、個別計画は全体指導より効率的 と示しています。8.8% の全員に個別プランを作ることは不可能ですが、最も困難が大きい数名に絞った個別支援 は現実的で効果的です。
チーム学校の枠組みで支える
8.8% の子どもへの対応は、担任一人で完結させない ことが前提です。中央教育審議会の「チーム学校」答申 (2015 / 2024) と 生徒指導提要(改訂版) (2022) は、ともに同じ前提に立っています。特別支援を含む生徒指導は 校内の組織と関係機関の連携 で進める、という枠組みです。特別支援教育の領域で関わる主な役割は次のとおりです。
- 教職員 — 担任、特別支援学級担任、通級指導教員、養護教諭、管理職
- 校内の調整役 — 全校に指名される 特別支援教育コーディネーター が校内の関係者と外部機関をつなぐ
- 専門スタッフ — スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)
- 関係機関 — 医療機関、療育施設、発達障害者支援センター、児童相談所、教育支援センター 等
上の「教室で今できる 3 つのこと」で挙げた 困難の言語化 と 個別計画 は、特別支援教育コーディネーターを経由します。個別の教育支援計画・個別の指導計画 として校内で共有するのが出発点です。担任の役割は「観察し、言語化し、つなぐ」こと。個別対応を全部担任が背負う構造ではありません。
まとめ
- 8.8% は「1 クラスに 3 人」。通常学級の担任が日常的に向き合う規模
- 診断率ではなく 現場感覚による推計。増加の背景には「見える化の進展」もある
- エビデンスが示すのは 「特別な指導」ではなく、通常授業の質を上げる 5 原則
- 明示的指導・メタ認知・足場かけ・柔軟なグルーピング・ICT — どれも本サイトで高効果として扱っている戦略
- 個別計画は 困難の大きい数名に絞る のが現実的
- 対応は 担任一人で抱えない — 特別支援教育コーディネーター・SC/SSW・関係機関を含む「チーム学校」の枠組みで進める
特別支援教育は「専門家の仕事」でも「特別な教室の話」でもありません。通常学級の質を上げることが、そのまま特別支援教育になる — これが 2020 年代のエビデンスが示している方向です。
参考資料
- 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和 4 年)について. 文部科学省 (2022), 令和 4 年 12 月公表. — 通常学級の 8.8% が学習面または行動面で著しい困難を示す(担任回答による推計、診断率ではない)。
- チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申). 中央教育審議会 (2015), 中教審第 185 号. — 「チーム学校」概念の原典。
- 「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申). 中央教育審議会 (2024), 中教審第 251 号, 2024 年 8 月 27 日. — 教職員集団の多様化・専門スタッフ配置拡充を含む最新の総合方策。
- 生徒指導提要(改訂版). 文部科学省 (2022). — 特別支援教育を含む校内組織対応(特別支援教育コーディネーター・通級指導教員・関係機関連携)の運用面を体系化。
- Special Educational Needs in Mainstream Schools. Education Endowment Foundation, Guidance Report. — 通常学級で SEND の子を支える 5 原則(Five-a-day)。明示的指導・メタ認知・足場かけ・柔軟グルーピング・ICT 活用。
- High-SEND Schools: Understanding the uneven distribution of pupils with SEND across England’s mainstream schools. Tang, S., Julius, J., Walker, M. & Classick, R., NFER (2025), 2025 年 11 月. — イングランドで法的な支援計画(最も支援ニーズの大きい子に自治体が出す)を持つ児童生徒の過半数(2024/25 年度で 56%、2015/16 年度の 49% から増加)が通常校に在籍。支援ニーズの大きい子を通常校が受けとめる傾向の国際的事例。