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教員不足の現在地 — 年度初の欠員、学期途中の穴、悪循環のエビデンス

公立学校教員採用試験の倍率は過去最低を更新し続け、小学校は 2.0 倍(令和 7 年度)。精神疾患による休職者は年々増え、学期途中に代替が見つからない事態が広がる。給特法改正と中学校 35 人学級の中で、エビデンスが示す「何に集中すべきか」を整理する。

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目次(17)
  1. 数字で見る教員不足
  2. 学期途中の離脱と代替不在 — 数字に出にくい教員不足
  3. 精神疾患による病気休職者が過去最多
  4. 産休・育休と特別支援学級の増加
  5. 臨時的任用教員のなり手不足
  6. 代替が見つからず、管理職や主任が担任を兼務する
  7. 教員の質と学力の関係 — エビデンスが示すこと
  8. 悪循環の構造
  9. 政策の動き
  10. 給特法改正(2025 年 6 月成立、2026 年 4 月施行)
  11. 中学校 35 人学級(令和 8 年度〜段階的)
  12. 教員として考えたいこと
  13. まとめ
  14. 参考資料
  15. 日本の研究・公式資料
  16. 海外の研究
  17. 関連読み物

数字で見る教員不足

公立学校の教員採用選考試験の競争倍率は、平成 12 年度(2000 年度)のピークから低下し続けています。文部科学省 令和 6 年度(令和 5 年度実施)採用試験実施状況 によれば、令和 6 年度の全体倍率は 3.2 倍(過去最低)小学校は 2.2 倍 でした。さらに 令和 7 年度(令和 6 年度実施)の結果 では、小学校は 2.0 倍 へとさらに低下しています。

文科省は、採用倍率低下の背景として 大量退職に伴う採用者数の増加(令和 6 年度 36,421 人、平成 12 年度 11,021 人の 3 倍超)既卒受験者の減少 を挙げています。単純に「教員人気が落ちた」で片付けられない構造があります。

公立小学校教員採用試験の倍率推移(2014〜2025) 0 1 2 3 4 5 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 試験実施年(年度) 倍率(倍)
出典 文部科学省「公立学校教員採用選考試験の実施状況等」。2014 年 4.1 倍から 2025 年 2.0 倍へ、7 年連続で過去最低を更新。
数値データを表形式で表示
試験実施年(年度)小学校採用倍率
20144.1
20153.9
20163.6
20173.5
20183.2
20192.8
20202.7
20212.6
20222.5
20232.3
20242.2
20252

学期途中の離脱と代替不在 — 数字に出にくい教員不足

教員不足は年度初の「欠員」だけでは語れません。年度内に担任や教科担任が離脱し、代替の臨時的任用教員が見つからない 事態が広がっています。

精神疾患による病気休職者が過去最多

文部科学省 令和 5 年度公立学校教職員の人事行政状況調査 によれば、公立学校の精神疾患による病気休職者は 7,119 人(令和 5 年度) で過去最多。前年 6,539 人から 580 人増加 し、全教育職員の 0.77% にあたります。休職要因としては、児童・生徒への指導や事務的業務、職場の対人関係が上位です。

産休・育休と特別支援学級の増加

文部科学省「教師不足」に関する実態調査(令和 4 年 1 月) は、必要教員数が見込みを超える要因として (a) 産休・育休取得者数の増加、(b) 特別支援学級数の増加、(c) 病休者数の増加 を挙げています。

臨時的任用教員のなり手不足

同調査は、代替を担うべき 臨時的任用教員の名簿登録者数の減少 も主要因として指摘しています。団塊世代が退職し切った後、「退職教員が講師として戻る」従来の補充ルートが枯渇しつつあり、結果として 学期途中の穴が埋まらない 状況が生じています。

代替が見つからず、管理職や主任が担任を兼務する

全国公立学校教頭会の調査(令和 7 年度、2025 年 12 月公表) は、令和 7 年度始業式時点で約 20%(19.9%)の学校で教員が未配置(全国で 4,200 校以上、うち 1,034 校が複数人未配置)と報告しています。同じ調査では、令和 6 年度に教員未配置となった小学校で 副校長・教頭の 30.2% が「担任の代替」を実際に行っている(中学校は 7.5%)ことも示されています。副校長・教頭の負担が増加している状況です。

本サイトの執筆者(元小学校教諭、2011 年から小学校勤務)の経験としても、勤務を始めた頃には代替教員が比較的短期間で見つかっていました。近年は 数ヶ月待っても後任が決まらない 事例が増えています。その間、教頭や教務主任が通常業務に加えて担任を兼務する運用が広がり、悪循環のループに 「管理職の疲弊」「校内の調整業務の停滞」 という副次影響が加わります。

教員の質と学力の関係 — エビデンスが示すこと

教員不足の問題は「人がいない」だけでなく、授業の質が下がる ことにあります。本サイトで高効果と紹介している戦略の多くは、教員の準備時間と経験量に強く依存します。

戦略効果量教員の時間・経験との関係
メタ認知の指導+8ヶ月「学び方」を子どもに明示する指導設計が必要
フィードバック+6ヶ月一人ひとりの理解を把握し、次の一歩を個別に示す
直接教授法(明示的指導)+5ヶ月説明・モデリング・練習の段階を計画する
教師と子どもの関係性+4ヶ月継続的な関わりの積み重ねが前提

欠員で授業準備の時間が削られたり、臨時任用教員が短期で入れ替わる状況では、これらの指導は成立しにくくなります。

悪循環の構造

エビデンスと行政データから見えてくる循環:

  1. 労働環境が厳しい令和 4 年度 教員勤務実態調査 で小学校教諭の時間外在校等時間は月平均 約 41 時間(前回の約 59 時間から減少したものの、依然として高水準)
  2. 精神疾患による休職が増える — 令和 5 年度で過去最多 7,119 人
  3. 学期途中に代替が見つからない — 臨時的任用教員の名簿登録者が減少
  4. 残った教員の負担が増える — 授業準備・個別対応の時間が削られる
  5. 効果の高い指導(フィードバックメタ認知)に時間を割けなくなる — 学力・不登校・いじめへの対応の質が下がる
  6. 労働環境がさらに厳しくなる → 1. に戻る

一度回り始めると自己強化する構造で、どこか 1 点の介入だけでは止まりません。

政策の動き

給特法改正(2025 年 6 月成立、2026 年 4 月施行)

給特法等改正法 が 2025 年 6 月 11 日に成立し、2026 年 4 月 1 日に施行されました。主な柱は次のとおりです。

  • 教職調整額を段階的に 4% → 10% まで引き上げ(令和 11 年度までに完了予定)。約 50 年ぶりの実質的な処遇改善
  • 新職「主務教諭」の創設
  • 教育委員会に 業務量の適切な管理・健康福祉確保策 の計画策定・公表を義務付け
  • 令和 11 年度までに時間外在校等時間を月約 30 時間 まで縮減する政府目標

中学校 35 人学級(令和 8 年度〜段階的)

中学校 35 人学級の実施等のための法律 が 2026 年 3 月 31 日に成立し、令和 8 年度から中学校でも段階的に 35 人学級が実施されます(令和 8: 中 1、令和 9: 中 1・2、令和 10: 中 1〜3)。約 40 年ぶりの中学校学級編制標準の引下げです。

ただし、学級規模の縮小 の学力効果は EEF Toolkit で +1 ヶ月 と限定的。35 人学級は教員の労働環境改善・個別対応の余裕確保には寄与します。一方で 学力向上の直接的な手段としては限界がある ことは、エビデンスベースに誠実であるために併記します(詳細は 少人数学級にどれだけの効果があるか?)。

教員として考えたいこと

教員不足は個人の努力で解決できる問題ではありません。だからこそ、限られた時間・エネルギーを「何に集中するか」 の判断が重要になります。

  • フィードバック (+6 ヶ月) に時間を割く — 「よくできました」で終わらせず、「次にどうするか」を一人ひとりに伝える時間は削らない
  • メタ認知の指導 (+8 ヶ月) を取り入れる — 子どもが自分の学び方を意識できるようになると、教員の個別対応の負担は徐々に下がる
  • 業務の選別と委譲 — 行事・会議・事務の優先順位を、個人ではなく学校組織として 見直す(給特法改正の業務管理計画はこの支援を後押しする枠組み)
  • メンタルヘルスを最優先する — 倒れてしまえば、担当の子どもにとって最悪の展開になる。早期の受診・休職申請を躊躇しないでほしい

まとめ

  • 採用倍率は過去最低(令和 6 年度全体 3.2 倍、令和 7 年度小学校 2.0 倍)。採用者数の増加と既卒受験者減少の両方が要因
  • 年度初の欠員だけでなく、学期途中の離脱と代替不在 が深刻化している
  • 精神疾患による病気休職者は令和 5 年度 7,119 人 で過去最多、前年比 +580 人
  • 文科省調査は (a) 産休・育休 (b) 特別支援学級増 (c) 病休 (d) 臨時的任用教員のなり手不足を主要因として整理
  • 全公教調査では 令和 7 年度始業時点で約 20%(19.9%)の学校で教員未配置、令和 6 年度に未配置となった小学校の副校長・教頭の 30.2% が担任を代替 と報告。管理職・主任への負担転嫁が進行
  • 教員の力量と時間に依存する高効果指導(フィードバック・メタ認知・明示的指導)は、欠員下では成立しにくい
  • 政策: 給特法改正(教職調整額 4% → 10%、令和 11 年度までに月残業 30 時間目標)、中学校 35 人学級(令和 8 年度〜段階的)
  • 学級規模縮小の学力効果は EEF で +1 ヶ月と限定的。労働環境改善の意義はあるが、学力向上の直接手段ではない

参考資料

日本の研究・公式資料

海外の研究

  • Reducing class size. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — 学級規模縮小の学力効果は +1 ヶ月で限定的。

関連読み物

  • 『崩壊する日本の公教育』 鈴木大裕 (2023), 集英社新書 1235E. — 元中学校教師で米国コロンビア大学で教育学博士号を取得、現在は高知県土佐町議会議員も務める著者が、米国の教育市場化(チャータースクール・標準テスト)の経緯を追いながら日本の公教育が直面する構造的課題を論じた書籍。本コラムが扱う教員不足・労働環境の文脈と地続きの読み物。
Related Strategies

関連する指導法

本コラムで言及した指導法の詳細ページ。エビデンスの強さと効果量を確認できます。

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