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「主体的・対話的で深い学び」は本当に効果があるのか? — 構成要素ごとのエビデンス

学習指導要領が掲げる授業改善の柱を、構成要素(主体的/対話的/深い)ごとに分解して研究エビデンスで照合する。フレーズとして定量検証したメタ分析はなく、下位要素ごとに効果量は大きく異なる。

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目次(10)
  1. 学習指導要領の柱
  2. フレーズ全体としてのエビデンスは存在しない
  3. 構成要素ごとに見るとエビデンスは異なる
  4. 口頭言語の指導(+6 ヶ月)とは
  5. プロジェクト型学習(PBL)とは、なぜ効果が限定的か
  6. 解像度を上げる
  7. 政策と研究のギャップ
  8. まとめ
  9. 考えたいこと
  10. 参考資料

学習指導要領の柱

2017 年告示の小学校学習指導要領は、「主体的・対話的で深い学び」を授業改善の柱として掲げました。教員研修や校内研究のテーマとしても頻繁に取り上げられています。

しかしこの言葉は抽象的で、現場の先生方からは「結局、何をすればいいのか分かりにくい」という声もよく聞きます。研究のエビデンスに照らすと、何が言えるのでしょうか。

フレーズ全体としてのエビデンスは存在しない

率直に言うと、「主体的・対話的で深い学び」というフレーズそのものを定量的に検証した RCT やメタ分析は存在しません。これは「主体的・対話的で深い学び」が日本独自の政策用語であり、海外の教育研究では検討対象になっていない ためです。

つまり、「『主体的・対話的で深い学び』を実施した学級は +◯ ヶ月の効果がある」と直接言える研究はありません。

構成要素ごとに見るとエビデンスは異なる

フレーズを 構成要素に分解 すると、要素ごとにエビデンスの強さはかなり違います(EEF Toolkit で集約された効果量)。

要素関連する指導法効果量
主体的に学ぶメタ認知の指導(EEF では自己調整学習を含む)+8 ヶ月(355 研究のメタ分析)
対話的に学ぶ協同学習+5 ヶ月
対話的に学ぶ口頭言語の指導(後述)+6 ヶ月
フィードバックフィードバック(形成的評価を含む)+6 ヶ月(エビデンスが堅牢)
深い学び探究学習 / プロジェクト型学習(PBL、後述)限定的、条件によっては負の影響

口頭言語の指導(+6 ヶ月)とは

本サイトの戦略ページ 口頭言語の指導 に詳述していますが、EEF Toolkit の「Oral language interventions」 は、話す・聞く・語彙・構造化された話し合い を授業の中で 明示的に指導する 一連のアプローチを指します。読み書きだけでなく「聞いて理解し、話して説明する」力を計画的に育てる指導を授業に組み込むと、読解や教科学習にも波及するため、+6 ヶ月(幼児期 +7 / 小学校 +6 / 中学校 +5)の効果が報告されています。EEF の最新更新では 222 研究を含み、エビデンス強度は最高(★5)。既存カリキュラムに統合する形で実施されたときに効果が大きく、語彙の少ない子どもにも有効性が示唆されています。

プロジェクト型学習(PBL)とは、なぜ効果が限定的か

プロジェクト型学習(Project Based Learning、PBL) は、ひとつのテーマや「問い」を長期のプロジェクトとして探究し、成果物(レポート・展示・発表など)を作る学習形式です。日本の総合的な学習の時間や教科横断型の探究活動とも重なる概念です。

「主体的」と「対話的」を支える指導法には比較的強いエビデンスがある一方で、「深い学び」を「探究学習」や PBL と直結させると、研究的な裏付けは弱くなる 点に注意が必要です。EEF が実施した Project Based Learning のランダム化比較試験 では、学力(読み書き)への正の効果は確認されず、就学援助対象児童(FSM: Free School Meals)には負の影響が報告 されました(なお学校の中途脱落が多く、結果の解釈には慎重さが必要)。「深い学び」は、形式としての探究ではなく メタ認知や知識の転移 の側面で実現される方が、エビデンスと整合します。

解像度を上げる

ここで大事なのは、「主体的・対話的で深い学び」を実施しているかではなく、どの要素を、どう実施しているか を問うことです。

「対話的」と言っても中身で効果は変わります:

  • 構造のないペア学習 → 効果が小さい(おしゃべりに終わる)
  • 役割と目標が明確な協同学習 → +5 ヶ月
  • 教師が問いを工夫した学級全体の対話(Dialogic Teaching の EEF 試験: 78 校・小学 5 年対象の RCT で英語・理科に +2 ヶ月、算数に +1 ヶ月、FSM(Free School Meals)児童には 3 科目すべてで +2 ヶ月)

「主体的」も同様:

  • 何でも子どもに選ばせる → 効果が小さい、あるいは負の効果
  • メタ認知スキルを明示的に教える → +8 ヶ月
  • 形成的評価でフィードバックを返す → +6 ヶ月

つまり「主体的」「対話的」というラベルだけでは、効果の有無を判断できないということです。

政策と研究のギャップ

学習指導要領が掲げるフレーズは、授業改善の方向性としては悪いものではありません。ただし、「主体的・対話的で深い学びを実施しよう」という抽象的な呼びかけだけでは、研究的な効果は保証されません。

研究の知見を踏まえるなら:

  • 何を「主体的」と呼ぶかを具体化する(メタ認知の明示的指導? 自己調整学習の支援?)
  • 何を「対話的」と呼ぶかを具体化する(構造化された協同学習? dialogic teaching 型の学級対話?)
  • 何を「深い」と呼ぶかを具体化する(知識の転移? 概念の比較?)

抽象的なフレーズをそのまま追いかけるよりも、その下にある 構成要素の質 を高めることが、子どもの学びに直結します。

まとめ

  • 「主体的・対話的で深い学び」というフレーズ全体を検証した研究は存在しない(日本独自の政策用語)
  • 構成要素ごとの効果量: メタ認知 +8 ヶ月、協同学習 +5 ヶ月、口頭言語の指導 +6 ヶ月、フィードバック +6 ヶ月、探究 / PBL は 限定的〜条件により負
  • EEF の PBL 試験は、読み書きで正の効果を確認できず、就学援助対象の児童に負の影響を示唆
  • EEF の Dialogic Teaching RCT(小学 5 年 78 校)は 英語・理科で +2 ヶ月、算数で +1 ヶ月、FSM(Free School Meals)児童には 3 科目すべてで +2 ヶ月 と正の効果を確認
  • 抽象的な呼びかけでなく、構成要素の質 を高める具体的指導が学びに直結する

考えたいこと

「主体的・対話的で深い学び」は、研究のエビデンスを総合した方向性として的確です。ただし、それは 目的地 であって、道筋 ではありません。

道筋を示すのは、メタ認知・形成的評価・協同学習といった具体的な指導法のエビデンスです。学習指導要領の理念と研究の知見を結ぶには、抽象から具体への翻訳 が必要です。それを担うのは、教員一人ひとりの専門性と、それを支える研修の質だと言えます。

参考資料

  • 小学校学習指導要領. 文部科学省 (2017). — 「主体的・対話的で深い学び」を掲げた現行版。
  • Metacognition and self-regulation. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — メタ認知と自己調整学習で +8 ヶ月(355 研究のメタ分析)。
  • Collaborative learning approaches. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — 構造化された協同学習で +5 ヶ月。
  • Feedback. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — 形成的評価・フィードバックで +6 ヶ月。
  • Oral language interventions. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — 口頭言語介入で +6 ヶ月(小学校対象、34 研究が加わった更新版)。
  • Project Based Learning — trial report. Education Endowment Foundation. — PBL の RCT。読み書きへの正の効果なし、FSM(Free School Meals)児童に負の影響を示唆(ただし学校脱落が多く、解釈には慎重さを要する)。
  • Dialogic Teaching — trial report. Education Endowment Foundation. — 小学 5 年 78 校 RCT。英語・理科 +2 ヶ月、算数 +1 ヶ月、FSM(Free School Meals)児童は 3 科目すべて +2 ヶ月。
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関連する指導法

本コラムで言及した指導法の詳細ページ。エビデンスの強さと効果量を確認できます。

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