Column

GIGAスクール端末で何が変わったか?

1人1台端末が全国に行き渡った今、「使っている」だけでは効果が出ない理由をエビデンスから考える。

← コラム一覧 トップ

目次(12)
  1. 1人1台端末の時代
  2. 研究が示していること
  3. 日本での運用状況 — 進展と課題
  4. 「使っている」だけでは効果が出ない
  5. 家庭への持ち帰り運用の課題
  6. 政策と現場のギャップ
  7. 禁止ではなく育成 — デジタルシティズンシップ教育への接続
  8. 考えたいこと
  9. まとめ
  10. 参考資料
  11. 日本の研究・公式資料
  12. 海外の研究

1人1台端末の時代

GIGAスクール構想により、日本中の小学校に1人1台の端末が配備されました。文部科学省は「ICTを活用した学びの充実」を掲げ、端末活用の促進が進んでいます。

しかし、「端末を使っている」ことと「端末で学力が上がっている」ことは同じではありません。研究はこの2つを明確に区別しています。

研究が示していること

Zheng, Warschauer, Lin, & Chang (2016) の 1 人 1 台端末環境のメタ分析・研究統合 は、10 件の統計分析対象研究で次の結果を報告しています。

  • ライティング(書く力) で特に効果が大きい
  • 英語・数学・科学 でも有意な正の効果
  • 読解 では統計的に有意な効果は認められなかった

EEF の Using Digital Technology to Improve Learning(2021 ガイダンスレポート) では、ICT 活用の効果は +4 ヶ月 としつつ、重要な条件が付いています。

ICT が既存の指導を「置き換える」のではなく「補完する」形で使われたときに効果が大きい

つまり、「先生の代わりに ICT」ではなく「先生の指導に ICT を加える」 ことが鍵です。

日本での運用状況 — 進展と課題

GIGA スクール構想の配備完了から数年が経ち、2025 年 7 月公表の 令和 7 年度 全国学力・学習状況調査(国立教育政策研究所) では、ICT 機器の活用に自信がある児童生徒ほど各教科の正答率が高い 傾向が報告されています。令和 6 年度の調査では、発表・表現場面で ICT を積極活用する学校は、それ以外の学校より各教科の正答率が高い という結果も示されました。

ただしこれらは観察研究レベルの関連で、因果関係の証明ではありません。ICT の活用度が高い学校は、授業設計や教員の指導力全般で他校より進んでいる可能性があり、「ICT 自体が正答率を上げた」とは直接には言えません。

活用頻度としては、ICT 機器を「ほぼ毎日」または「週 3 回以上」使う学校が小中とも 9 割を超えており、配備段階は完了しています。現在は 中央教育審議会のデジタル学習基盤特別委員会 (2024 年 7 月取りまとめ) による GIGA スクール構想 第 2 期 へ移行し、端末更新と活用の質向上に論点が移っています。

「使っている」だけでは効果が出ない

研究が繰り返し指摘しているのは:

  • 機器の導入だけでは効果がない — 端末を配るだけでは学力は変わらない
  • 教師の指導設計が効果を大きく左右する — 何のためにICTを使うかが明確な授業で効果が出る
  • 即時フィードバック型の活用が効果的 — ドリル学習での自動採点やリアルタイムの理解度把握
  • 表現・共有ツールとしての活用 — 考えを書いて全員で共有する場面は従来の黒板を超える

家庭への持ち帰り運用の課題

GIGA 端末の家庭持ち帰りは、第 2 期でも論点の 1 つです。文部科学省の整備・利活用状況調査 によれば、持ち帰りを制度化している学校は限定的で、多くの学校で慎重な運用検討が続いています。

慎重さの背景には、複数の構造的な課題があります。

  • 家庭の通信環境格差: 家庭の Wi-Fi 環境や通信費負担能力には差があり、持ち帰り課題を一律に出すと家庭環境による公平性の問題が生じます。自治体ごとに就学援助や通信機器の貸与制度が用意されていますが、運用の手間や支援範囲には地域差があります
  • 不適切使用とネット依存のリスク: フィルタリングは全国教育委員会の 約 97.9% が導入しているものの(デジタルアーツ 2024 調査)、授業時間外のゲーム利用・SNS トラブル・アダルトサイト閲覧等の事例が報告されています。厚労省研究班(代表: 尾崎米厚鳥取大教授、久里浜医療センター連携)による 2017 年度推計では、ネット・ゲーム依存疑いの中高生は全国で 約 93 万人(約 7 人に 1 人) とされます
  • 家庭・学校・制度の役割分担: 学校が端末を渡す以上、一定のルール設計は学校側の責任だが、家庭での使用実態を学校側から完全にモニタリングする手段はありません。家庭側の監督と、自治体・制度側のインフラ支援(Wi-Fi 補助・フィルタリング基盤)も合わせた役割分担が前提となる

持ち帰り運用は 単なるインフラ整備ではなく、家庭・学校・制度の役割分担を設計する課題 であり、この領域の研究・実態把握は今後の論点です。

政策と現場のギャップ

「端末の活用率」を指標にした施策は、使用頻度の高さ ≠ 学習効果の高さ という問題を孕んでいます。

毎日端末を使っていても、それが単なるドリルの反復にとどまるなら、紙のドリルと比べて大きな差が出ない可能性があります。むしろ、端末が「考えを可視化し、他者と共有し、フィードバックを即時に受ける」ためのツールとして使われたときに、端末ならではの強みが活きます。

禁止ではなく育成 — デジタルシティズンシップ教育への接続

持ち帰り運用で触れたフィルタリング・ネット依存・利用時間の管理は、いずれも 「危険を避けるためのルール・マナー」を上から与える禁止型 の情報モラル教育に近い整理です。一方で 2020 年代以降の実践では、「技術を主体的に使いこなし、社会に参加する市民を育てる」育成型のデジタルシティズンシップ教育 への重心移動が進んでいます。

GIGA 端末そのものに +4 ヶ月の効果量を期待するのではなく、端末を介した学びの場面で子ども自身が使い方・付き合い方を判断する力を育てる と捉え直すと、端末活用の評価軸は「活用率」や「使用時間」から「主体性と判断力の育ち」へ移ります。本サイトでは同じ観点で以下のコラムも扱っています。

考えたいこと

端末がある環境は既に整いました。次に問うべきは 「何のために使うか」 です。

エビデンスに基づくなら:

  • 即時フィードバック が活きる場面で使う(フィードバック: 計算ドリル、漢字練習、小テスト)
  • 考えの共有 が活きる場面で使う(教室での対話・議論: 全員のノートを一斉表示、ペアで意見を交換)
  • 個別最適化 が活きる場面で使う(個別化学習: 子どものペースに合わせた課題提示)
  • 使わない方がいい場面 もある(深い思考が必要な場面、手を動かして考える場面)

「端末を使うこと」ではなく「端末で何が変わるか」を問い続けることが大切です。

まとめ

  • Zheng et al. (2016) のメタ分析では、1 人 1 台端末は ライティング・英語・数学・科学 で有意な正の効果、読解では有意差なし
  • EEF の集約値として ICT 活用+4 ヶ月 とされるが、既存の指導を補完する形で使う のが条件
  • 日本では ICT 機器活用率は小中とも 9 割超に達し、GIGA スクール構想第 2 期で「配備」から「活用の質」へ段階が移行
  • 観察研究では ICT 活用の自信度と正答率に相関 があるが、学校全体の指導力との交絡が考えられるため因果は断定できない
  • 「使っている」頻度よりも 何のために使うか が効果を決める
  • 家庭への持ち帰りは 通信環境格差・ネット依存リスク・役割分担 の 3 つの構造課題があり、単純なインフラ問題ではない

端末は手段であり、「端末で何が変わったか」 を問い続ける視点が、エビデンスと整合します。

参考資料

日本の研究・公式資料

海外の研究

  • Using Digital Technology to Improve Learning. Education Endowment Foundation (2021), Guidance Report. — デジタル技術の学習効果を包括的にレビュー。ICT 活用全般の集約値として +4 ヶ月。置き換えではなく補完として使うときに効果が大きい。
  • Zheng, B., Warschauer, M., Lin, C.-H., & Chang, C. (2016). Learning in one-to-one laptop environments: A meta-analysis and research synthesis. Review of Educational Research, 86(4), 1052–1084. — 65 論文 + 31 博士論文から 10 研究をメタ分析。ライティング・英語・数学・科学で有意な正効果、読解では有意差なし。
Related Strategies

関連する指導法

本コラムで言及した指導法の詳細ページ。エビデンスの強さと効果量を確認できます。

← コラム一覧へ戻る