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いじめ認知76万件 — 「認知が増えた」は本当に悪いことなのか?

いじめ認知件数が過去最多を更新し続けている。しかし「件数が増えた=悪化」という読み方は正しいのか。エビデンスに基づく予防の視点から考える。

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目次(11)
  1. 76万9,022件 — 数字だけ見れば「危機」
  2. 「認知件数が多い」は悪いことなのか?
  3. 認知が進んだ背景
  4. それでも深刻な数字
  5. エビデンスが示す予防策
  6. 小学校教員として考えたいこと
  7. 「数字の読み方」を保護者と共有する
  8. 「予防」に時間を使う
  9. 「認知したら対応する」を組織で
  10. まとめ
  11. 参考資料

76万9,022件 — 数字だけ見れば「危機」

文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(令和 6 年度)によれば、いじめの認知件数は 76 万 9,022 件 で過去最多を更新しました。重大事態も 1,405 件 で過去最多です。

いじめ認知件数の推移(小・中・高・特別支援学校 合計) 0 200,000 400,000 600,000 800,000 令和3 令和4 令和5 令和6 615,351 681,948 732,568 769,022 年度 認知件数(件)
出典 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」。4 年連続で過去最多を更新しているが、令和 5 年度から令和 6 年度の増加率は +5.0% と鈍化。
数値データを表形式で表示
年度いじめ認知件数
令和3615351
令和4681948
令和5732568
令和6769022

この数字だけを見れば「日本のいじめは悪化し続けている」と読みたくなります。しかし、文部科学省はこの増加を 必ずしも否定的には評価していません

「認知件数が多い」は悪いことなのか?

文部科学省は公式に次のように述べています。

いじめの認知件数が多い学校は「いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインに立っている」と極めて肯定的に評価する。

つまり、認知件数が増えた = いじめが増えた、ではなく、見つけられるようになった という解釈です。

以前は「うちの学校にいじめはない」と報告することが「良い学校」の証とされていました。今は逆に、「うちの学校はこれだけ認知し、対応している」ことが評価されます。この意識の転換が件数増加の大きな要因です。

認知が進んだ背景

  • いじめ防止対策推進法(2013年) の定義の拡大 — 「心理的・物理的な影響を与える行為」と広く定義
  • アンケート調査の充実 — 定期的なアンケートで潜在的ないじめを可視化
  • GIGA端末を活用した心身チェック — 端末での日常的な気分・体調の報告が、SOSの早期発見につながる
  • SNS上のいじめの積極的認知 — 従来は見えにくかったオンラインのいじめが認知対象に

それでも深刻な数字

認知件数の増加に肯定的な面があるとはいえ、重大事態 1,405 件(うち法第 28 条第 1 項の重大事態 1,404 件)は楽観できません。認知件数 76 万 9,022 件のうち年度末までに解消したのは 585,349 件(76.1%)。一方で、約 13 万 6 千人の不登校児童生徒が学校内外の機関等で専門的な相談・指導等を受けていない という問題も併存しています。

「見つけた後にどう対応するか」が次の課題です。

エビデンスが示す予防策

いじめの「対処」ではなく「予防」のエビデンスとして、以下の知見が参考になります。

指導法効果量いじめ予防との接点
社会性と情動の学習(SEL)+3ヶ月自己理解・感情調整・対人スキルを育てる。いじめの加害・被害の両方を減らす効果
行動への働きかけ+3ヶ月望ましい行動を増やすアプローチ。困難の大きい子への個別計画が効果的
教師と子どもの関係性+4ヶ月「この先生は自分をわかってくれている」と感じる子はSOSを出しやすい

Durlak et al.(2011)の213件のSELプログラムを対象としたメタ分析では、学力向上に加えて社会的スキル・態度・行動面でも正の効果が確認されています。SELは「いじめ対策」として単独で導入するより、学級経営の基盤として日常化 する方が効果的です。

小学校教員として考えたいこと

「数字の読み方」を保護者と共有する

保護者懇談会やたよりで「認知件数が増えた = 学校が悪い」ではなく「見つけて対応する力が上がった」と伝える。数字の意味を正しく共有することが、学校と家庭の信頼関係を守ります。

「予防」に時間を使う

いじめが起きてから対処するより、起きにくい学級をつくる方がはるかに効率的です。

  • 感情を扱う関わり — トラブル時にすぐ裁定せず「どんな気持ちだった?」を聞く。感情を表す語彙(うれしい・くやしい・もどかしい)を日常会話で増やす
  • 全員との短い対話 — 週に1回でも、一人ひとりにひとこと声をかける時間をつくる
  • 望ましい行動を認める関わり — できた瞬間に声をかける。叱って減らすより、認めて増やす方が行動は変わりやすい(行動への働きかけの知見)

「認知したら対応する」を組織で

認知の次に必要なのは 組織的対応 です。いじめ防止対策推進法(2013) 第 22 条は、各学校に 「いじめの防止等の対策のための組織」 を常設することを求めており、担任 1 人で抱えず、この組織を通じて学年主任・生徒指導主事・管理職・SC/SSW と共有するルートが前提になります。「困ったら相談」ではなく「認知したら自動的に共有」の仕組みが、教員の心理的負荷も下げます。

重大事態(同法第 28 条)が発生した場合は、学校設置者による調査組織(第三者委員会)の設置と、生命・身体への危険が疑われる事案での 警察・医療機関・児童相談所などの関係機関との連携 が法律上求められます。軽微な認知の段階で組織共有を習慣化しておくことが、重大事態への連続性を断つ第一歩です。

まとめ

  • いじめ認知件数は 76 万 9,022 件 で過去最多、重大事態は 1,405 件(令和 6 年度)
  • 文科省は認知件数の多さを「初期段階から積極的に認知して対応しているスタートライン」と 肯定的に評価 しており、「認知が多い = 悪化」ではない
  • 増加の背景には、2013 年いじめ防止対策推進法による定義の拡大・アンケートの充実・GIGA 端末での心身チェック・SNS いじめの積極認知 など認知する力の向上がある
  • 予防エビデンス: SEL +3 ヶ月 / 行動への働きかけ +3 ヶ月 / 教師と子どもの関係性 +4 ヶ月
  • 対応は いじめ防止対策推進法 第 22 条の常設組織 を通じた組織対応が前提。重大事態(第 28 条)は警察・医療機関・児相等の関係機関連携が法定

参考資料

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