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「脳が腐る」は本当か — スクリーンタイム研究が見せる「小さいが確かな」負の効果

2024年のオックスフォード「今年の言葉」に選ばれた「brain rot」。科学的に検証すると、効果量は小さいものの複数の縦断研究で負の関連が確認されている。福井大学2025年の新知見を含めて整理する。

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目次(14)
  1. 「今年の言葉」になった「脳が腐る」
  2. 結論から — 効果量は小さい、ただしゼロではない
  3. 因果か相関か — 横断研究と縦断研究の違い
  4. 福井大2025:脳構造が「媒介」する経路が見えた
  5. 「脳が腐る」の読み替え — 時間より「何をしているか」
  6. 教室と保護者会で伝えられること
  7. 教員として
  8. 保護者会で聞かれたら
  9. まとめ
  10. 参考資料
  11. 日本の研究・公式資料
  12. 海外の研究
  13. 用語の出典
  14. 関連読み物

「今年の言葉」になった「脳が腐る」

2024年12月、オックスフォード英語辞典は「今年の言葉」に 「brain rot(脳が腐る)」 を選びました。定義は「取るに足らないオンラインコンテンツの過剰摂取による精神的・知的な劣化」。前年比で使用頻度が 230%増 だったと発表されています。

この言葉が子どもたちのSNSや、Robloxゲーム「Steal a Brainrot(ブレインロットを盗む)」経由で教室にも入ってきました。保護者会でも「スマホばかり見ていると本当に頭が悪くなるのか」と聞かれます。

では、科学的にはどう答えればよいのでしょうか。

結論から — 効果量は小さい、ただしゼロではない

本サイトでは、スクリーンタイムの学習・発達への影響を整理しています。

エビデンス効果量主な出典
スクリーンタイムの影響−2ヶ月Madigan et al.(2019)ほか
SNS利用と精神健康への影響−1ヶ月Viner et al.(2019)ほか

関連する複数の縦断研究・メタ分析が報告する効果量は Cohen’s d で概ね −0.15 前後 にとどまり、統計的には「小さい効果量」に分類される範囲です(効果量は研究対象・アウトカムにより幅があります)。

心理学者 Orben & Przybylski(2019) は、SNS利用と幸福度の関連を3つの大規模データセット(計35万人以上)で再検証し、効果量は r ≒ 0.05 とごく小さく、しかも「朝食を毎日食べること」と同程度の説明力しかないと示しました。「スクリーンタイム = 脳が腐る」という単純な図式は、エビデンスに対して誇張気味と言えます。

一方、「効果量が小さい = 無視してよい」ではない ことも押さえておく必要があります。

因果か相関か — 横断研究と縦断研究の違い

スクリーンタイム研究の多くは 横断研究 で、「ある時点でスマホ利用が多い子は学力が低い」程度のことしか言えません。これは「スマホが学力を下げた」のか「学力が低いからスマホに向かう」のかを区別できません(逆因果の問題)。

因果に踏み込むには 縦断研究 が必要です。代表例:

  • Madigan et al.(2019) — 2〜5歳の2,441人を追跡。発達スクリーニングテストへの負の関連を確認。
  • 川島隆太(東北大) — 仙台市学習状況調査でスマホ使用時間と学力の負の相関を報告。ただし主な解析は横断のため因果は未確定。

そして、この分野の新しい知見として2025年末に発表されたのが 福井大学の縦断研究 です。

福井大2025:脳構造が「媒介」する経路が見えた

福井大学子どものこころの発達研究センター の Shou・Yamashita・Mizuno は、米国の大規模小児縦断研究 ABCD Study のデータ(ベースライン 9〜10 歳・10,116 名、2 年後追跡 7,880 名)を解析しました。その結果は 2025 年 11 月 20 日に Translational Psychiatry 15, 447 で発表されています。

主な結果:

  • スクリーンタイムが長い子ほど、2年後のADHD症状が強まる
  • 右側頭極・左上前頭回・左吻側中前頭回などで 皮質が薄くなる 傾向
  • 脳全体の皮質体積が、スクリーンタイム → ADHD症状の関連を 部分的に媒介 していた

「縦断」かつ「脳構造という媒介経路を示した」という点で、従来の相関研究から一歩踏み込んだ知見です。ただし、ABCD Studyのデータ解析である以上 日本の子どもに直ちに当てはまるとは限らない(文化・生活習慣・スクリーンタイムの中身の違い)点には注意が必要です。

「脳が腐る」の読み替え — 時間より「何をしているか」

これらを総合すると、エビデンスの実情はおよそ次のようになります。

  • 「ドーパミン暴走で脳が破壊される」は誇張 — 効果量は小さい
  • 「長時間使用は学力・精神健康・脳構造と負の関連」は複数研究で一貫 — 無視してはいけない
  • 因果の経路は、直接の神経毒性ではなく「睡眠・身体活動・対人関係・注意制御」を経由した間接効果 が大きい(Viner et al. 2019 のメディエーション分析と整合)

つまり、指導上の焦点は 「使用時間の長さを減らすこと」より「時間の中身と、失われているものを守ること」 に置く方が、エビデンスと整合します。

教室と保護者会で伝えられること

学級経営における対応の枠組みは、姉妹コラム「『ブレインロット』が学級に来たとき — 家庭起点デジタルトラブルへの向き合い方」で整理しました。本コラムの科学的検証を踏まえても、現場の手応えとしては デバイスを持たせる前のルールの確認と徹底 が要点になると感じます。筆者が保護者会でこの種の相談を直接受けた経験は多くありませんが、周囲の教員から「情報モラル教育が追いついていない」という声を聞く機会は少なくありませんでした。近年は、禁止型の情報モラルから一歩進めて デジタル・シティズンシップ教育 として育成型に転換する議論も進んでおり、こうした現場感覚と無関係ではないでしょう。

教員として

  • 「何時間までOK」より「何を削っていないか」を見る — 睡眠・運動・宿題・対面遊びが侵食されていないか
  • 脳構造・ADHD症状の話は慎重に — 福井大研究は重要だが「スマホで脳が壊れる」と言い切ると誇張
  • 「禁止」ではなく「使い方のリテラシー」デジタルシティズンシップ教育の文脈で扱う

保護者会で聞かれたら

「スマホ=脳が腐る、という単純な話ではありません。ただし、長時間使用は学力・睡眠・メンタルヘルスと小さいけれど一貫した負の関連があると複数の研究で確認されています。時間そのものより、睡眠時間・外遊び・家族の会話・対面の友人関係が減っていないか を家庭で見ていただきたいです」

という答え方が、エビデンスの水準に合っていると思います。

まとめ

  • 「brain rot」は文化現象として重要だが、科学的には 効果量は小さい(d 概ね −0.15 前後)
  • ただし複数の縦断研究で負の関連が確認され、福井大2025は脳構造経由の媒介も示した
  • 因果の主経路は 睡眠・運動・対人関係の侵食 という間接効果
  • 指導上は「時間管理」より「削られているものを守る」視点が、エビデンスと整合的

「脳が腐る」は誇張です。しかし、「気にしなくていい」も同じくらい不正確です。小さいけれど確かな効果量 をそのまま受け取るのが、エビデンスに対して誠実な姿勢だと言えます。

参考資料

日本の研究・公式資料

海外の研究

用語の出典

  • Word of the Year 2024: ‘brain rot’. Oxford University Press (2024). — オックスフォード英語辞典の 2024 年「今年の言葉」発表。使用頻度が前年比 230% 増。

関連読み物

  • スマホが学力を破壊する』 川島隆太 (2018), 集英社新書(ISBN 978-4087210248). — 仙台市学習状況調査をもとに、スマホ使用時間と学力の負の相関を論じた日本の一般書。解析は横断中心のため因果は未確定。
  • 『最強脳 — 『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業』 アンデシュ・ハンセン (2021), 久山葉子訳, 新潮新書. — 『スマホ脳』の著者が、子どもや若い世代向けに書いた処方箋的な続編。運動・睡眠・スクリーンタイムを軸に、脳の働きを保つための具体的な行動指針を平易に解説。本コラムで扱う「スクリーンタイムと脳・学力の関係」の補助読み物として。
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関連する指導法

本コラムで言及した指導法の詳細ページ。エビデンスの強さと効果量を確認できます。

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