一言でいうと
テレビ・スマホ・タブレット・ゲーム等の画面を見る時間(スクリーンタイム)と、学力・睡眠・メンタルヘルス・近視の関連が調べられています。ただし関連の向きと強さは領域ごとに違い、「長いほど悪い」と一括りにはできません。GIGAスクール環境で端末が日常化した今こそ、どこまで言えるかを分けて見る必要があります。
なぜ負の影響があるのか
- スクリーンタイムが増えると、読書・運動・睡眠・対面の対話に使える時間が減る(置換効果)
- 就寝前の画面使用はブルーライトと覚醒刺激により入眠を遅らせ、睡眠時間を削る
- SNSやゲームの即時報酬に慣れると、教室での学習への集中力が下がる
- 受動的な視聴(動画を見るだけ)は能動的な学習(読む・書く・話す)と質が異なる
日本の小学校で知っておくべきこと
- 「1日2時間」という目安がよく引かれるが、支えている研究は領域によって違う。うつ症状については2時間を超えるとリスクが上がる用量反応メタ分析がある一方、同じ分析では0時間より1時間の方がリスクが低い。学力について2時間という閾値を支持するメタ分析は確認できていない
- 米国小児科学会は2016年に、学齢期へ一律の時間制限を当てはめる方針を取りやめている。就寝1時間前は画面を避ける、という推奨は残っている(「1時間で睡眠の質が下がる」と研究が示したわけではなく、推奨として置かれている)
- 保護者に伝えるなら、時間の閾値より行動で伝える方が裏づけを示しやすい。就寝前に画面を避けること(米国小児科学会の推奨)と、屋外で過ごす時間を確保すること(近視との関連が国内調査で見られている)の2つ
- GIGAスクール端末は「学習用」だが、家庭での使い方まではコントロールしにくい
- 保護者向けに「スクリーンタイムの目安」をエビデンス付きで伝える機会を持つ
- 授業でのICT活用(+3ヶ月)と、無目的な画面使用(-2ヶ月)は全く別物であることを教員自身が区別する。この -2 はテレビ視聴の効果量に基づく代表値で、総スクリーンタイムの値ではない
- 「端末を使う=学習」ではない。何をしているかが重要
研究からわかっていること
- Hattieのメタ分析ではテレビ視聴の効果量d=-0.18(負)
- 学力との関連を調べたメタ分析(Adelantado-Renau et al. 2019)では、総スクリーンタイムと学力の関連は確認されなかった(効果量 -0.29、95% 信頼区間 -0.65〜0.08)。負の関連が出たのは用途別で、テレビ視聴(-0.19)とゲーム(-0.15)
- 睡眠については、系統的レビュー(Hale & Guan 2015)が90%の研究で不利な関連を報告している。主なものは睡眠時間の短縮と就寝時刻の遅れで、著者らは因果関係は確認されていないとしている
- メンタルヘルスとの関連はU字型で、1日1時間前後でうつリスクが最も低く、2時間で0時間と同等、4時間で1.46倍まで上がる(Liu et al. 2016。オッズ比=かかりやすさの比で、1 なら差なし。1時間 0.88 / 2時間 0.99 / 4時間 1.46)
- 近視については、スマート機器の使用との関連を報告するメタ分析(Foreman et al. 2021、オッズ比 1.26、95% 信頼区間 1.00〜1.60。著者らは「関連する可能性がある」と限定している)がある一方、文部科学省の令和4年度調査ではテレビ視聴時間が長い小学生ほど近視の有病割合が低く、機器によって向きが割れている。同調査では、屋外活動が長いほど近視が少ない関連と、学校以外の勉強・読書時間が長いほど近視が多い関連の双方に明確な傾向が見られた(この分析は学年で調整しただけで、他の要因は調整していない)
- WHO(2019)は1歳未満と1歳児には座位のスクリーンタイムを推奨せず、2〜4歳では1日1時間以内を推奨している(いずれも5歳未満が対象)。5〜17歳を含むWHO(2020)は「娯楽目的の画面時間を減らす」とだけ述べ、時間の数値を示していない
- 教育目的での適切な使用と、受動的な娯楽使用を分けて考える必要がある
注意したいこと
- 「画面=悪」という単純な結論ではありません。問題は「長時間の無目的な使用」です
- GIGAスクール端末の教育的利用まで制限するのは本末転倒で、目的のある使用は効果的です
- 家庭のスクリーンタイムは学校だけでは管理できないので、保護者との連携が欠かせません
- 子ども自身が「自分の画面時間を意識する」メタ認知を育てることが長期的な対策になります
主な参考研究
日本の研究・公式資料
- 令和4年度 児童生徒の近視実態調査 調査結果報告書. 文部科学省 (2024). — 小中学生の近視有病割合と生活習慣の関連。テレビ視聴時間が長い小学生ほど近視が少なく、休日のPC・タブレット使用が長いほど多いなど、機器によって向きが分かれる。最も一貫していたのは屋外活動との関連。
海外の研究
- Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age. WHO (2019). — 1歳未満と1歳児には座位のスクリーンタイムを推奨せず、2〜4歳は1日1時間以内。
- WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. WHO (2020). — 5〜17歳を含む指針。娯楽目的の画面時間を減らすよう勧めるが、時間の数値は示していない。
- Adelantado-Renau, M., et al. (2019). Association between screen media use and academic performance among children and adolescents. JAMA Pediatrics, 173(11), 1058–1067. — 総スクリーンタイムと学力の関連は確認されず、テレビ視聴とゲームで負の関連。
- Liu, M., Wu, L., & Yao, S. (2016). Dose–response association of screen time-based sedentary behaviour in children and adolescents and depression. British Journal of Sports Medicine, 50(20), 1252–1258. — うつリスクとの関連はU字型。1日1時間前後で最も低く、2時間を超えると上がる。
- Foreman, J., et al. (2021). Association between digital smart device use and myopia. The Lancet Digital Health, 3(12), e806–e818. — スマート機器の使用と近視の関連を統合。単独ではOR 1.26(95% CI 1.00〜1.60)で、著者らは「関連する可能性がある」と限定している。
- Hale, L., & Guan, S. (2015). Screen time and sleep among school-aged children and adolescents. Sleep Medicine Reviews, 21, 50–58. — 90%の研究で睡眠時間の短縮と就寝時刻の遅れとの関連。因果は未確認。
- American Academy of Pediatrics, Council on Communications and Media (2016). Media Use in School-Aged Children and Adolescents. Pediatrics, 138(5), e20162592. — 学齢期に一律の時間制限を当てはめる方針を取りやめた方針声明。就寝1時間前の画面回避などを推奨。