一言でいうと
学力が基準に達しない子どもを、進級させずにもう1年同じ学年に留める措置です。日本の小学校では制度上ほとんど行われませんが、海外では広く議論されています。研究では負の効果が報告されており、「効果がない指導法」の代表例です。
なぜ効果がないのか(むしろ逆効果なのか)
直感的には「もう1年やれば追いつける」と思えますが、EEF はそれを支持していません。EEF が挙げる理由は次のとおりです。
- 留年した子は自己肯定感が低下し、学習意欲を失う傾向がある
- 同じ内容をもう1年繰り返すだけでは、つまずきの根本原因が解消されない
- EEF は、留年した子が進級した同程度の学力の子に追いつくことは、もう1年学校で過ごしたあとでも起きにくいと整理している
- 社会的な関係(友人関係)の断絶が、情緒面にも悪影響を与える
日本の小学校との関連
日本では原級留置(留年)はほぼ行われません。しかし、この知見は以下の場面で参考になります。
- 「この子は◯年生の内容が身についていない」と感じた時、次の学年で補充する方向を研究は示しています
- 不登校の子が復帰する際、「1学年戻す」よりも「現学年で個別に支援する」方が研究の示す方向
- 海外の教育事情を理解する際の基礎知識として
研究からわかっていること
- EEF Toolkit の効果量は平均−2ヶ月で、学力が後退する方向です。小学校段階も−2ヶ月、中学校段階では−4ヶ月とされ、負の効果はやや大きくなります
- 教育の介入で負の効果が出ること自体が珍しく、EEF はその点を目立つ結果として挙げています
- 負の効果は時間とともに大きくなる傾向があり、2 年以上留年すると中退のリスクが大きく高まると報告されています
- 負の効果は、社会経済的に不利な子ども・エスニックマイノリティの子ども・学年の中で相対的に月齢が低い子どもで大きいと報告されています
- 確実性評価は 5 段階中 2(low)にとどまります。研究の多くが無作為化比較試験ではないことと、結果のばらつきの大きさが説明しきれていないためです
- EEF は、留年させるのではなく追加支援を伴う進級(個別指導・少人数指導など)を代替案として挙げています
- ただしメタ分析の結論は一致していません。Allen et al.(2009)は、研究設計の質が高いほど負の効果は小さくなり、中〜高質の研究ではゼロと有意差がなかったと報告しており、留年に負の効果があるという通説に反する結果だと述べています
注意したいこと
- この結果は「学力が低い子を放置してよい」という意味ではありません。留年以外の支援(個別指導・少人数指導・家庭との連携)が必要です
- 日本の制度では留年はほぼないため、直接の政策的含意は限定的です
- ただし「同じことを繰り返せば身につく」という前提への重要な反証として知っておくべき知見です
- 「研究からわかっていること」で挙げた 2 点(確実性評価の低さと、メタ分析どうしの不一致)は、この知見の限界として押さえておく必要があります
主な参考研究
- Jimerson, S. R. (2001). Meta-analysis of grade retention research: Implications for practice in the 21st century. School Psychology Review, 30(3), 420–437. — 20研究のメタ分析。留年は学力・社会性・自己肯定感のいずれにも負の効果。
- Allen, C. S., Chen, Q., Willson, V. L., & Hughes, J. N. (2009). Quality of research design moderates effects of grade retention on achievement: A meta-analytic, multilevel analysis. Educational Evaluation and Policy Analysis, 31(4), 480–499. — 1990〜2007年の22研究・207効果量。研究設計の質が高いほど負の効果は小さくなり、中〜高質の研究の効果量はゼロと有意差がなかった。著者らは「留年が学力に負の影響を与えるという通説に反する結果」と述べている。
- Repeating a year. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — 2025年10月のレビュー(95研究)で、小学校段階の効果は−2ヶ月、中学校段階は−4ヶ月。確実性評価は 5 段階中 2(low)。留年ではなく追加支援を伴う進級を代替案として挙げている。