← 指導法一覧へ戻る

Strategy — 最終更新 2026-06-17

日本研究

指導法

学習塾と公教育の関係

学習塾通いは平均的に学力向上と関連する一方、家庭の経済状況による格差を生む構造でもある。効果量は選択バイアスの統制が難しく、研究によって幅がある。

学習効果
+3ヶ月
3月時点で、通常より約3ヶ月先の学力水準に到達
エビデンス
★★★☆☆
コスト
¥¥¥¥¥
対象
全教科
中学年 · 高学年
Evidence Breakdown

出典別のエビデンス

日本研究 + 3 ヶ月 ★★★ ☆☆ 中室牧子(慶應義塾大学)、松岡亮二(龍谷大学)

松岡亮二(2019)・中室牧子(2015)らは日本の学習塾通いと学力・進学の関連を分析し、通塾は学力向上に寄与する一方、SES により通塾率に大きな差があり、公教育では縮まらない格差を学習塾が拡大している と指摘。

Technical Appendix 研究の詳細
総サンプルサイズ
学習塾の効果は無作為化比較試験(RCT)ではなく、大規模調査データの観察研究で推定されてきた。Stevenson & Baker(1992)は日本の全国調査データで通塾と大学進学の関連を分析し『影の教育(shadow education)』概念を確立した社会学の基礎研究で、近年は PISA 等の国際大規模データや傾向スコアマッチング(PSM)で選択バイアスの統制が試みられている
効果量
通塾には研究間で一致した標準化効果量(Cohen's d 等)が存在しない。塾に通う子はもともと学力・学習意欲・家庭の教育関心が高い傾向(選択バイアス)があり、単純な『塾あり vs なし』比較は効果を過大評価する。逆に学力が低い子が補習目的で通うケースもあり、選択を統制しない観察データでは通塾と成績の関連が負に出ることさえある(PISA 2022 を用いた国際分析)。傾向スコアマッチング等で統制すると、効果は『正だが小さい』から『有意でない』まで研究により分かれる
エビデンスの限界

学習塾の効果研究には RCT がほぼ存在せず、観察研究が中心。最大の問題は選択バイアスで、通塾児はもともと学力・SES・学習意欲が高い傾向があるため効果が過大評価されやすい一方、補習目的の利用では関連が負に出ることもあり、推定は方向すら一定しない。Bray(2014)は、肯定的・中程度・有意でない結果が混在する状況を『研究は決定的でない(inconclusive)』とまとめている。また自己選択で通う学習塾は、実験的に対象者を割り当てる個別指導(tutoring intervention)とは別の構成概念であり、後者で報告される効果をそのまま当てはめることはできない。効果は科目・学年・通塾頻度・地域・経済状況によって大きく異なる。本サイトの『+3ヶ月』は、選択バイアスを統制すると効果が縮むことを踏まえた中庸寄りの控えめな暫定値であり、確定した因果効果ではない

日本の文脈で考慮したいこと

『学習塾は公教育の補完ではなく学力格差の主要因の一つ』 という日本特有の論点。OECD 国で見ても日本・韓国・台湾等の東アジア諸国は shadow education の比率が突出して高い。公教育の教員が知っておくべきは、学級内の学力差の背後に通塾の有無がある可能性と、その差が SES に強く規定されていること。『家で勉強しないから学力が低い』という解釈は、構造を見誤らせる。

なぜこの注記があるか:エビデンスと文化的文脈

目次(9)
  1. 一言でいうと
  2. なぜ効果が複雑なのか
  3. 日本の小学校で取り入れるヒント
  4. 研究からわかっていること
  5. 注意したいこと
  6. 主な参考研究
  7. 海外の研究
  8. 日本の研究・公式資料
  9. 注記

一言でいうと

日本の小学校高学年では、約半数の児童が学習塾に通っています(文部科学省「子供の学習費調査」)。学習塾通いは、平均的には学力向上と関連していますが、その効果は通塾頻度・塾の質・子どもの年齢によって大きく異なり、また通塾できるかどうかは家庭の経済状況に強く依存します。

なぜ効果が複雑なのか

学習塾の効果を測ることは方法論的に難しい問題です。「塾に通う子は、もともと学習意欲が高い・家庭が学習に関心が高い」という選択効果があり、単純に「塾あり vs なし」で比較すると塾の効果が過大評価されます。中室牧子氏らの研究は、こうした選択バイアスを統計的に補正した上で、塾通いの効果は確かに正だが想定より小さいと報告しています。

日本の小学校で取り入れるヒント

学校としてできること:

  • 「塾に通っている子」と「通っていない子」の間の知識ギャップを意識する
  • 授業の中で基礎の復習機会を確保し、塾依存を前提にしない
  • 宿題を塾の課題と競合させない設計にする
  • 補習・放課後学習を充実させ、塾に通えない子の学習機会を保障する
  • 保護者への情報提供で「塾が必須」という空気を強化しない

研究からわかっていること

  • 塾通いと学力には平均的に正の相関(SES等を統制しても)
  • 効果は通塾頻度に比例するが、上限がある
  • 効果は読解より計算で大きい傾向
  • 塾通いは家庭の経済状況に強く依存し、教育格差の主要因の一つ
  • 「塾に通っている子」がクラスに多いと、通っていない子の学習機会が見えにくくなる

注意したいこと

  • 塾の効果は「子どもの学力を一律に上げる」のではなく「教育機会に格差を生む」側面があります
  • 「塾で習った」前提で授業を進めると、通っていない子が取り残されます
  • 家庭の塾代は SES 格差をそのまま学力格差に転写する経路です
  • 公教育の役割は「塾の補完」ではなく「すべての子の学習権の保障」です

主な参考研究

海外の研究

  • Bray, M. (2009). Confronting the shadow education system: What government policies for what private tutoring? UNESCO IIEP. — 民間塾(shadow education)の国際比較研究。日本・韓国・中国を含む。
  • Buchmann, C., Condron, D. J., & Roscigno, V. J. (2010). Shadow education, American style: Test preparation, the SAT and college enrollment. Social Forces, 89(2), 435–461. — 米国の SAT 対策と進学の関連。
  • Byun, S., Chung, H. J., & Baker, D. P. (2018). Global patterns of the use of shadow education: Student, family, and national influences. Research in the Sociology of Education, 20, 71–105. — PISA データを用いて、学習塾(shadow education)の利用パターンを国際比較した研究。

日本の研究・公式資料

  • 中室牧子(2015). 『「学力」の経済学』ディスカヴァー・トゥエンティワン. — 塾通いの効果を含む、教育経済学の入門書。
  • 松岡亮二(2019). 『教育格差――階層・地域・学歴』筑摩書房. — 塾通いと教育格差の構造を包括的に分析。
  • 文部科学省 — 子供の学習費調査(各年度). 学習塾費を含む家庭の教育費の継続調査。

注記

学習塾の効果は選択バイアスの統制が難しく、効果量の推定は研究によって幅があります。地域・科目・学年・経済状況によって効果は大きく異なり、本サイトの「+3ヶ月」は中庸寄りの控えめな換算値で、確定値ではありません。

参考にしている情報源
Stevenson & Baker (1992) Shadow education and allocation in formal schooling: Transition to university in Japan