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「顧問は断れない」は本当か — 二段構えの法的事実
部活動の顧問をめぐっては、「教員である以上、顧問は断れない」という言葉をよく聞きます。一方で、「勤務時間外の指導まで強制されるのはおかしい」という声もあります。どちらが正しいのでしょうか。
結論から言えば、この問いは二つに分けて考える必要があります。顧問への就任そのものと、勤務時間外に実際の指導へ従事することは、法的な扱いが違うからです。
- 顧問への就任は、校務分掌の一つとして校長から命じられうる(就任そのものを拒むのは難しい)
- 一方で、勤務時間外の部活動指導は、一方的な時間外勤務命令の対象にはならない(制度上は「自発的な勤務」という建前で成り立っている)
「断れる/断れない」の一語で語れるほど単純ではありません。本コラムは、学校教育法・給特法・いわゆる超勤4項目を定めた政令の条文に沿って、この二段構えを整理します。「上手な断り方」のような手引きではなく、教員が自分の置かれた制度を正確に理解するための解説です。
なお、部活動の顧問が大きな負担となるのは主に中学校・高校ですが、教職調整額や超勤4項目といった給特法の枠組みは、公立の小・中学校などの教員に共通して適用されます。
顧問への就任は「校務分掌」として命じられうる
まず就任の側から見ます。
学校の運営は、校長を中心に組み立てられています。学校教育法は「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」と定めています(第37条第4項)。さらに同法の施行規則は「小学校においては、調和のとれた学校運営が行われるためにふさわしい校務分掌の仕組みを整えるものとする」と定めています(学校教育法施行規則第43条)。
ここでいう校務分掌とは、教務・生徒指導・保健・各種主任など、学校を動かすために必要な仕事を教職員で分担する仕組みのことです。部活動の顧問も、通常はこの校務分掌の一つとして割り当てられます。国のガイドラインも、校長が教師を部活動顧問に決める際は「適切な校務分掌となるよう留意する」ことを求めています。
そのため、顧問への就任そのものを、本人の希望だけを理由に拒むことは、法的には難しいのが実態です。校務分掌の割り当ては、校長の権限に基づく職務上の決定だからです。教諭の職務は「児童の教育をつかさどる」こととされており(第37条第12項)、学校運営に必要な役割の分担は、その職務に伴うものと整理されています。
しかし勤務時間外の指導従事は「超勤4項目」に含まれない
就任が校務分掌の問題だとしても、勤務時間の外で実際に指導へ当たることまで、一方的に命じられるのでしょうか。ここで関わるのが給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)です。
給特法は、公立学校の教員に教職調整額を支給する一方で、時間外勤務手当や休日勤務手当は支給しないという仕組みをとっています(第3条)。そのうえで、教員に正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は「政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る」と定めています(第6条)。
この「政令で定める基準」が、いわゆる超勤4項目です。「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」(平成15年政令第484号)は、時間外勤務を命じられるのは次の4つの業務に従事する場合で、かつ、臨時または緊急のやむを得ない必要があるときに限るとしています。
- 校外実習その他生徒の実習に関する業務
- 修学旅行その他学校の行事に関する業務
- 職員会議に関する業務
- 非常災害の場合、児童・生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
見てのとおり、部活動はこの4項目に含まれていません。つまり、勤務時間外の部活動指導は、原則として一方的な時間外勤務命令の対象にはならず、制度上は教員の「自発的な勤務」と位置づけられています。休日に大会へ引率しても、それは超勤4項目に基づく時間外勤務命令ではない、という建前で成り立っているのです。
給特法改正で何が変わり、何が変わらないか
2025年(令和7年)に給特法が改正され(令和7年法律第68号、令和7年6月18日公布)、2026年(令和8年)に施行されました。主な内容は次のとおりです。
- 教職調整額の引上げ — 従来は給料月額の4%だった教職調整額を、段階的に10%へ引き上げます。給特法附則の経過措置により、令和8年(2026年)に5%、令和9年に6%、令和10年に7%、令和11年に8%、令和12年に9%と毎年引き上げられ、**令和13年(2031年)に10%**へ達します。約50年ぶりの実質的な処遇改善とされます。
- 主務教諭の新設(令和8年4月1日施行)— 教諭の新しい職が設けられました。
- 業務量の適切な管理 — 教育職員の業務量を適切に管理することなどが給特法に位置づけられました(第7条)。
一方で、変わっていない点こそ重要です。教職調整額を支給する代わりに時間外勤務手当を支給しないという基本構造も、時間外勤務命令を超勤4項目に限るという枠組み(第6条)も、改正後そのまま維持されています。調整額は増えても、勤務時間外の部活動指導が「自発的な勤務」とされる構造そのものは変わっていません。「定額働かせ放題」と批判されてきた仕組みの核心は、今回の改正では残されたままです。
教員不足や採用倍率の低下など、働き方をめぐる現状全般については、本サイトの 教員不足の現在地 で整理しています。本コラムは、そのうち部活動と勤務時間に関わる法的な構造に絞った解説です。
部活動の地域移行 — 学校が抱え込まない方向へ
ここまでは「学校の中で誰が・いつ部活動を担うか」という話でした。近年は、部活動を学校だけで抱え込まない方向への政策も進んでいます。
スポーツ庁・文化庁は、2022年(令和4年)12月に学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドラインを策定しました。休日の部活動を地域のクラブ活動へ移していく「地域連携・地域移行」を進める方針です。
そもそも部活動は、生徒の自主的・自発的な参加によって行われる、教育課程の外に位置づけられた活動です。教員の本来の職務は「児童(生徒)の教育をつかさどる」こと(学校教育法第37条第12項)であり、休日まで含めた部活動指導を当然に教員が担わなければならない、という制度設計にはなっていません。スポーツや文化の活動を地域・社会教育が担う選択肢を広げることは、教員の負担を軽くすると同時に、子どもの活動機会を守る取り組みでもあります。ただし、地域クラブ活動は会費を伴うため、家庭の経済状況や地域の受け皿の有無によっては、かえって参加機会の格差につながる懸念もあります。ガイドライン自身も、低廉な会費の設定や、経済的に困窮する家庭の生徒への参加費用の支援を求めています。
現場で踏まえておきたいこと
法的な構造を踏まえると、現場で意識できることが見えてきます。
- 「断る/断らない」の二択で考えない — 就任そのものは校務分掌の問題ですが、勤務時間外にどこまで従事するか、誰がどう分担するかには、本来調整の余地があります。校務分掌を決める過程で希望や事情を伝えること、複数の顧問で分担することは現実的な選択肢です。
- 在校等時間を客観的に記録する — 自分の勤務時間を記録に残すことは、業務量を管理する出発点になります。
- 個人で抱えず、学校組織として見直す — 業務の選別や分担は、担任個人ではなく学校全体の課題です。給特法に位置づけられた業務量の適切な管理(第7条)や、教育委員会・管理職による業務量の管理は、この見直しを支える枠組みです。
- 地域移行の動きを知っておく — 休日部活動の地域連携・地域移行は、学校が抱え込まない選択肢を広げます。自治体の動きを把握しておくと、将来の見通しが立てやすくなります。
まとめ
- 「顧問は断れるか」は二段構えで考える。顧問への就任は校務分掌として校長から命じられうる(学校教育法第37条第4項、同法施行規則第43条)
- 勤務時間外の指導従事は、給特法第6条と超勤4項目を定めた政令(平成15年政令第484号)の枠組みの下では、一方的な時間外勤務命令の対象にならず、制度上は「自発的な勤務」とされる
- 2026年施行の給特法改正で教職調整額は段階的に引き上げられ(令和8年5%→令和13年10%)、主務教諭の新設や業務量の適切な管理が加わった。一方で、時間外勤務命令を超勤4項目に限る構造は変わっていない
- 部活動は教育課程外の活動であり、スポーツ庁・文化庁のガイドライン(2022年)は休日部活動の地域連携・地域移行を進めている。学校が一手に抱え込まない方向が示されている
参考資料
- 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法). e-Gov 法令検索. — 教職調整額(第3条)、時間外勤務を政令の基準に限る規定(第6条)、業務量の適切な管理(第7条)、調整額引上げの経過措置(附則)。本コラムの中心となる法律(昭和46年法律第77号)。
- 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律の概要. 文部科学省 (2025). — 令和7年(2025年)の給特法改正(令和7年法律第68号)の全体像をまとめた資料。
- 学校教育法. e-Gov 法令検索. — 校長の校務掌理・所属職員の監督(第37条第4項)、教諭の職務(第37条第12項)。
- 学校教育法施行規則. e-Gov 法令検索. — 校務分掌の仕組み(第43条)。
- 公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令. e-Gov 法令検索. — いわゆる超勤4項目(平成15年政令第484号)。
- 学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン. スポーツ庁・文化庁 (2022). — 校長が教師を部活動顧問に決定する際の校務分掌上の留意点、休日部活動の地域連携・地域移行の方針、および会費の適切な設定・経済的に困窮する家庭の生徒への配慮。