一言でいうと
子どもを学力レベルによってグループ分けし、それぞれの到達度に合わせて指導する方法です。日本では算数の「習熟度別指導」として広く実施されていますが、EEF は学力への効果量を0 ヶ月と報告しています。
なぜ学力が上がらないのか
「レベルに合わせれば効率的に学べる」という直感に反して、学力が上がらない理由は:
- 学力進捗 では、EEF は事前学力上位の児童にわずかな正、事前学力下位の児童にわずかな負を報告している。全体としては相殺されて 0 になる
- グループが固定化されると、下位から上位への移動がほとんど起きない(ラベリング効果)
- 教師の期待が無意識にグループによって変わってしまう
- EEF は、社会経済的に不利な子どもほど下位グループに誤って配置されやすいこと、下位グループが経験の浅い教師に受け持たれやすいことを挙げている
日本の小学校で取り入れるヒント
習熟度別指導そのものを否定するわけではありませんが、以下の工夫が必要です。
- グループを流動的に運用する(単元ごとに入れ替え、固定化しない)
- 「できない子のグループ」というラベリングを避ける。名称と伝え方に配慮する
- 下位グループの指導こそ、経験豊富な教師が担当する(逆になりがち)
- 習熟度別の時間を限定し、異質グループでの学び合い(協同学習)と組み合わせる
- 学力への効果が示されていないことを踏まえ、他の介入(フィードバック、メタ認知)に時間を振る判断も重要
研究からわかっていること
- EEF Toolkit の 58 研究のレビューでは、習熟度別編成の学力効果量は 0 ヶ月です。Steenbergen-Hu et al.(2016)のメタ分析も、学級間の固定的な能力別編成の効果は小さいと報告しています
- 学力進捗の下位児童への影響は、出所によって結論が分かれます。EEF Toolkit(58 研究)は事前学力下位の児童にわずかな負、上位にわずかな正としています。一方、英国の中学校 97 校を比べた UCL Student Grouping Study(Hodgen et al. 2026)では、事前学力下位の児童・FSM(就学援助相当)児童は両群同等で、差がついたのは事前学力上位の児童だけでした
- この UCL の研究では、学力進捗も自己肯定感も、混合編成の方がわずかに低いという結果でした。自己肯定感の負の効果は事前学力下位の児童で中程度(g = −0.13 / −0.19)。著者らは「混合編成なら下位の子の自己肯定感が高くなる」という事前の仮説が支持されなかったと明記しています。日本で語られる「下位グループに固定されると自信を失う」という懸念を、この研究は裏づけていません
- 学級内の一時的なグループ分けは、学級間の固定的な分けよりやや効果が大きいと報告されています(Steenbergen-Hu et al. 2016 では学級内 0.19〜0.30 に対し学級間 0.04〜0.06)
- 流動的な運用と、下位グループへの経験豊富な教師の配置が、リスクを下げる要素として挙げられています
注意したいこと
- 「習熟度別にすれば学力が上がる」という前提は研究と整合しません
- 学力進捗 の下位児童への影響は上記のとおり出所によって分かれます。どちらの読み方でも、下位の子にメリットが乏しい点は共通しています
- 「習熟度別は下位の子の自己肯定感を下げる」という通説には注意が必要です。 英国で両者を直接比べた UCL Student Grouping Study は逆の結果(混合編成の方が低い)を報告しており、この論点は決着していません
- 日本の算数で広く実施されている実態を踏まえ、「やめるべき」ではなく「やり方を改善すべき」と捉えるのが現実的です
主な参考研究
- Steenbergen-Hu, S., Makel, M. C., & Olszewski-Kubilius, P. (2016). What one hundred years of research says about the effects of ability grouping and acceleration on K-12 students’ academic achievement. Review of Educational Research, 86(4), 849–899. — 約100年分の研究をカバーする13のメタ分析を統合した二次メタ分析。効果がほぼゼロだったのは学級間の能力別編成(0.04 ≤ g ≤ 0.06)で、学級内グループ化(0.19〜0.30)・学年横断の教科別グループ化(0.26)・才能児向け編成(0.37)は正の効果。効果は上位・中位・下位で変わらなかった。
- Hodgen, J., Taylor, B., Tereshchenko, A., et al. (2026). The Student Grouping Study: Evaluation Report. UCL Institute of Education / Education Endowment Foundation(EEF プロジェクトページ)。混合編成28校とマッチングされた習熟度別編成69校・Year 7-8 数学の準実験的評価(2022年9月〜2024年7月実施)。混合編成を習熟度別編成と比べる向きで、学力進捗は全体 −1 ヶ月・事前学力上位の児童 −2 ヶ月で、事前学力下位の児童・FSM(就学援助相当)児童は両群同等。自己肯定感も混合編成の方が低く、事前学力下位の児童で中程度の負効果。
- Setting and streaming. Education Endowment Foundation, Teaching and Learning Toolkit. — 2021年7月のレビュー(58研究)で効果は 0ヶ月。確実性評価は 5 段階中 1(very limited)。上位にはわずかに正、下位にはわずかに負で、全体としては無視できる大きさと整理している。
- Ireson, J., & Hallam, S. (2001). Ability grouping in education. Paul Chapman Publishing. — 能力別グループ編成の教育社会学的分析。固定化のリスクを詳述。
関連する学習指導要領
- 小学校学習指導要領解説 総則編 — 「指導方法や指導体制の工夫改善など個に応じた指導の充実」の節で、学習内容の習熟の程度に応じた学習を取り入れることが挙げられています。この指導については、学級内で学習集団を編成する場合と、学級の枠を超えて編成する場合が考えられるとされていますが、小学校は義務教育段階であることを踏まえ、基本的な学級編制を変更しないことが適当であるとも記されています。
- 小学校学習指導要領解説 算数編 — 算数科における個別最適な学びの充実が求められています。