一言でいうと
「かけ算の問題を20問やってから、わり算を20問」——この練習の仕方をブロック学習と言います。日本のドリルや教科書のほとんどがこの形式です。
ブロック学習は練習中の正答率が高く「できている」と感じやすいのですが、1週間後や1ヶ月後のテストでは、問題を混ぜて練習した方が成績が良かったという実験が複数あります。大学生では1週間後、中学1年生では30日後のテストで確かめられています。
この「できている感覚」と「実際の定着」のズレが、ブロック学習の落とし穴です。
なぜ「できている感」が生まれるのか
ブロック学習では「次もかけ算だ」と分かっているため、どの解き方を使うかを自分で判断する必要がありません。同じパターンを繰り返すだけなので、練習中はスラスラ解けます。
しかし実際のテストや日常では「これはかけ算? わり算? 足し算?」と自分で判断する力が求められます。ブロック学習ではこの判断力が育ちません。
認知科学ではこのズレを「流暢性の錯覚」と呼びます。スラスラできる = 身についている、とは限らないのです。
研究が示す具体的な差
| ブロック学習 | 交互練習(問題を混ぜる) | |
|---|---|---|
| 練習中の正答率 | 高い(89%) | 低い(60%) |
| 1週間後のテスト | 低い(20%) | 高い(63%) |
※ Rohrer & Taylor (2007) の実験より(大学生 18 名が立体の体積の求め方を学ぶ。練習の仕方はランダムに割り付け)。交互練習群は1週間後に3倍の正答率。中学1年生 126 名が約3ヶ月練習した学校での研究(Rohrer, Dedrick & Stershic 2015)でも、30日後のテストで交互練習の方が高い成績でした。
練習中に「難しい」「混乱する」と感じるのは、脳が深く処理している証拠です。これを「望ましい難しさ(desirable difficulty)」と呼びます。
ではどうすればいいか
ブロック学習が「悪い」のではなく、ブロック学習だけに頼ることが問題です。
- 新しいことを学ぶ段階では、ブロック学習(同じタイプを繰り返し)で基本を身につける
- 定着させる段階では、交互練習(前の単元と混ぜる)で判断力と長期記憶を鍛える
具体的には:
- 算数の宿題で、今週の問題に先週の問題を2〜3問混ぜる
- 漢字テストで「今週の漢字」+「前に習った漢字」を出す
- 小テストを単元完結にせず、過去の内容も含む累積型にする
注意したいこと
- 子どもは「混ぜると難しくなった = 自分ができなくなった」と感じやすい。「難しいのは良いことだよ」と理由を説明することが大切
- 保護者から「ドリルの点数が下がった」と指摘されることがある。練習中の正答率は学力の指標ではないことを共有する
- 日本の教科書・ドリルのほとんどがブロック形式なので、教師が意識的に混ぜる工夫が必要
主な参考研究
- Rohrer, D., & Taylor, K. (2007). The shuffling of mathematics problems improves learning. Instructional Science, 35(6), 481–498. — 大学生を対象に、数学の問題(立体の体積)で交互練習の効果を調べた実験。1週間後のテストで3倍の差。
- Rohrer, D., Dedrick, R. F., & Stershic, S. (2015). Interleaved practice improves mathematics learning. Journal of Educational Psychology, 107(3), 900–908. — 中学1年生 126 名を対象に、約3ヶ月の数学の練習を交互練習とブロック練習で比べた研究。30日後のテストで交互練習が上回った(効果の大きさを示す指標 d = 0.79)。
- Brunmair, M., & Richter, T. (2019). Similarity matters: A meta-analysis of interleaved learning and its moderators. Psychological Bulletin, 145(11), 1029–1052. — 59 研究・238 効果量のメタ分析。交互練習の効果は全体で g = 0.42、数学課題で 0.34。単語の学習ではブロック練習が有利(-0.39)。このページの効果の目安の根拠。
- Rohrer, D. (2012). Interleaving helps students distinguish among similar concepts. Educational Psychology Review, 24, 355–367. — 交互練習が「概念の区別力」を育てることを理論的に説明。
- Dunlosky, J., et al. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58. — 10の学習法を評価。交互練習は「中程度の有用性」(ブロック練習は評価対象外)。
関連読み物
- Bjork, R. A. (1994). Memory and metamemory considerations in the training of human beings. In J. Metcalfe & A. Shimamura (Eds.), Metacognition: Knowing about knowing (pp. 185–205). — 「望ましい難しさ(desirable difficulty)」の考え方を論じた章。
関連する学習指導要領
- 小学校学習指導要領解説 算数編 — 既習事項の活用・統合が目標として示されており、交互練習の考え方と接続します。
関連項目: 交互練習(インターリービング) — 交互練習の効果と具体的な実践方法を詳しく解説